たぶん大丈夫なブログ

ちょっとした考察や雑感を述べていきます。

秘境「石澄の滝」探訪②

前回の記事(秘境「石澄の滝」探訪①)の続きです(一ヶ月以上更新が途絶えてしまっていましたが……)。とはいえ、前の記事を読まなくてもたぶん大丈夫です(ブログタイトル回収)。


前の記事で考察を深めた「一心寺の廃屋」を通り過ぎると見えてきたのは……崩れかかった山の斜面だった(写真1)。


(写真1)崩れかかった山の斜面。

ポロポロと砂と小石が混ざった土がこぼれ落ちてくる。落石が怖い。足場も滑りやすくなっているので出来るだけ急いで進む。花崗岩だろうか。ちゃんと観察すれば良かったが、危なかったので仕方ない。


危険な落石地帯を通り過ぎると、またもや廃屋が(写真2)。石澄の滝とその道中の、嘗ての繁栄(?)と現在の衰退を偲ばせる。


(写真2)廃屋再び。

廃屋の脇にはプラスチック製のテーブル兼ベンチが置いてあった(写真3)。その新しさから察するに、廃屋の家主の所有物というよりも、全く関係ないキャンプ客やバーベキュー客の忘れ形見だろう。


(写真3)廃屋脇のプラスチック製テーブル兼ベンチ。

その推察を裏付けるかのように、廃屋の側には焚き火の痕跡のようなものが見られた(写真4)。


(写真4)焚き火の痕跡のようなもの。円形の石組みに木がくべられている。

それなりにしっかりした石組みの跡だ。苔むしているがまだ使えるだろう。くべられた木は、最近使われた跡なのかもしれない。
円形の石組みは井戸のようにも見えるが……。


さらに歩みを進めていくとこじんまりとした滝が現れた(写真5)。やった、石澄の滝!!……ではない。
悲しいかな、そうやすやすと石澄の滝は現れない。


(写真5)石澄の滝ではない、こじんまりとした滝。

石澄の滝を訪れようと試みた他の人のブログでは、この滝で登山を断念していた。落差はそれほどではないものの、ワイルドさは存分に溢れている。キャンプやバーベキューを楽しむのならこの辺りまで来れば充分だろう。

この小さな滝を乗り越えると、謎の洞穴が出てきた(写真6)。実はこれ、鉱石の採掘跡なのだ。


(写真6)鉱石の採掘跡(間歩)。

これは間歩(まぶ)と呼ばれる採掘跡らしい。詳しくは下記のウェブページを参照して欲しい(戦国大名池田勝正研究所: 池田・箕面市境にある石澄滝と鉱山)。
このウェブページによると、江戸時代には銀や銅が採掘されていたようだ。戦時中には石澄の滝周辺は秦野鉱山と呼ばれており、鉛も採掘されていたようである。
石澄の滝を目指していた当時は、まさか山中にそのような歴史があるとは知らなかったものの、何となく鉱山跡だなと思わせるものは発見していた(写真7)。これは恐らく間歩から流れ出る銅だ。


(写真7)間歩から流れ出る銅。

テラテラした金属光沢、そして錆色。以前観光で愛媛県別子銅山を訪れた時を思い出した。
そこと比べたらはるかに小規模だが、何の変哲もない北摂の小山にも歴史があることを教えてくれる。

さて、道なき道をかき分けて進んでいくと何やら見えてきた。
……また廃屋だ。


(写真8)更なる廃屋。

木々に隠れがちで分かりにくいが、なかなか石垣が立派だ。ここは何に使われていたのだろうか。一心寺の廃屋は修行や雑事に使われた寺院関連施設、プラスチック製のテーブル兼ベンチがあった廃屋は造りの粗末さから単なる小屋のように見えたが……。
それなりに整った造りから察するに、観光客向けの茶屋、もしくは誰かの別荘だったのかもしれない。

この廃屋を横から覗いてみた(写真9)。


(写真9)横から見た廃屋。

横から見てもそれなりにしっかりした造りだということが窺える(この写真では分かりにくいが土間のような場所もあった)。ということはここで火を扱う料理ができたということだ。
廃屋手前の木の枝には、「石澄の滝 山友会」なる案内板が取り付けられていた。この山道も完全に放置されている訳ではないのだろう。

この先の道中で、気になったものを二つ見つけた。一つは三ツ矢サイダー……ではなく、三ツ矢コーヒーだ(写真10)。


(写真10)三ツ矢コーヒーの空き缶。

調べてみると三ツ矢コーヒーは1981年に缶コーヒーとして発売されたが不評だったらしい。そして1986年には別のシリーズの缶コーヒーが売り出されている。(J.O./Asahi Beer参照)。これを踏まえると、この缶コーヒーは1981年~1986年頃に捨てられてそのままということになる。
実に30年も前の文化が石澄の滝の道中に残っているのだ。
30年前に石澄の滝を見に行った人が捨てた缶コーヒーを、2015年に生きる我々が目にできる。30年前といったらプラザ合意貿易摩擦の時代だ。冷戦は終結していない。そもそもまだ昭和だ。中森明菜が凛然と輝くアイドルだった……。
30年も前のごみが残っているなんて、ごみが自動的には処分されない山中だからこそ起こり得る現象だ。都会だったら即ダストシュート、そのまま夢の島の一部だろう。
念のために公式ウェブサイトで確認してみたが、缶の形状、ラッピング共に一致した(https://www.asahiinryo.co.jp/entertainment/historybooks/mitsuya/history02.html参照)。30年もの間、山中で雨ざらしになっていたのだろうか。石澄の滝の衰退の歴史に思いを馳せる。

もう一つはサワガニだ(写真11)。分かりにくいが、写真の中央に橙色で丸く写っているのがサワガニである。石の下に潜ろうとするサワガニを何とかして撮影しようと格闘した。


(写真11)石澄川に生息するサワガニ。

石澄川は上流がゴルフ場として開発され、水源がゴルフ場の池になったため水質が悪化したという話をWikipediaや他のウェブページで見たことがある。しかし現在は、少なくともサワガニが生息する程度には水質が改善したのだろう。
ちなみに生のサワガニを食べると寄生虫にやられる恐れがあるため注意。

さて、サワガニとの格闘を終えて数分後、水が打ち付けられる音が大きくなってきた。そう、本記事のメインディッシュ、石澄の滝にとうとう近づいたのだ(写真12)。


(写真12)石澄の滝(遠景)。

おお、とうとう辿り着いた。……だが微妙に遠い。確かに見える。見えるが、遠い。
しかし先の道のりは完全に荒れ果てた山道。これ以上進むのは危険だと思い、その場でもたもたしていると……友人が岩場をよじ登っていた。
その姿を見ていると勇気づけられた。確かに道のりは険しいが、諦めるには惜しい。もう少し踏ん張ってみようと思い、最後の関門を突破する。

するとそこに広がっていたのは……雄大な石澄の滝だった(写真13)。


(写真13)石澄の滝(近影)。

轟々と流れる水の音が、静かに森に響く。矛盾した表現だが、そうとしか言いようがない。滝の音はうるさくない。あくまで自然と響いてくる。
他の人のブログには石澄の滝の水量の乏しさを嘆く記述が見られたが、今回の探訪では充分な水量だった。夏の終わりという季節と、前日の雨が上手く作用したのかもしれない。

滝を暫く眺めていると、周辺で気になるものを発見した。山肌に垂れ下がる縄である(写真14)。


(写真14)山肌に垂れ下がる縄。足を掛けやすいように結び目が施されている。

石澄の滝に至る道は幾つかあり、その内の一つがこの山肌を下るものなのだろう。しかしこれは山肌というより単なる崖だ。さすがにここを登る体力、気力はなかった。縄がどれだけ信頼できるのかという問題もある(千切れてもおかしくない)。

今度は石澄の滝の麓から石澄川下流を見下ろしてみる(写真15)。


(写真15)石澄の滝の麓から眺めた景色。

これまでの道中の縮図だった。道なき道、獣道。生い茂る草木と、色づき散り始めた木の葉。川のせせらぎ、滝の轟音。石澄の滝まで辿り着いた。その感動を景色と共に味わった。

そして気づく。
遠足は帰るまでが遠足だと。
何度も顔にかかった蜘蛛の巣、滑りやすい岩場、橋の架かっていない川の流れを思い出し、少し溜め息。


【追記】
石澄の滝へ通じる道の入り口近く、丸太橋や地蔵堂があった場所(前の記事参照)をゼンリンの住宅地図で確認してみると……何やら鳥居のマークが(写真16)。神社の地図記号だ。その脇には「白瀧大神」なる文字も添えられている。


(写真16)神社の地図記号と「白瀧大神」の文字。

ひょっとすると前記事の「完全に倒壊した家屋(写真8)」は、「白瀧大神」なる神社(もしくはそれに関係する施設)の成れの果てなのかもしれない。ただ、その割りには鳥居が全然見当たらなかった。すっかり朽ちて消失しまったのだろうか。地蔵堂とも何らかの関係があるのかもしれない。

少し疑問を掘り下げると更なる疑問が現れる。一心寺の廃屋(廃寺)や秦野鉱山跡(間歩)が最たる例だ。こういう場所の盛衰を追跡してみたいが、大した資料も見つけられずなかなか大変そうだ。特に、石澄の滝が観光地として整えられ道中に家屋が造られるものの、再び自然へと還っていくプロセスが気になっている。
観光地の脱観光地化。廃墟が好例だろう。石澄の滝の場合は廃屋という建物だけでなく、石澄の滝に至るまでの道のりもその対象となりそうだ。
自分にとって興味の尽きない場所、それこそが石澄の滝である。




【2016年12月3日 追記】

tabunsakatsu.hatenablog.com

2016年晩秋、石澄滝を再訪して一心寺を含む廃屋、「白瀧大神」などの謎に迫りました。
この記事を読んでモヤモヤした方は、上の記事も是非お読みいただければ。



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