たぶん大丈夫なブログ

ちょっとした考察や雑感を述べていきます。

映画視聴者に薦めたい『若おかみは小学生!』原作エピソード6選

はじめに

2018年9月21日に公開された映画『若おかみは小学生!』。
当初は好調と言えなかった観客動員数。それが後にSNSや口コミでじわじわと人気を獲得していき、2018年12月現在では興行収入が3億円を超えたという*1

もちろん映画も素晴らしいのだが、妹の影響で2000年代中頃からリアルタイムで追い続けてきた一読者としては、「青い鳥文庫」で出版され続けてきた原作をもっと世に知らしめたいという思いがある。そこで、個人的にお薦めしたい原作エピソードを6つ選んでその魅力を紹介してみたい。
老若男女からの注目が集まっている2018年現在、この記事が原作を手に取ってもらうきっかけとなれば本望である。

※エピソードの根幹のネタバレは極力回避しているつもりですが、原作小説がすっかり我が身の血となり肉となっているのでうっかりリークしてしまっているかもしれません。
また、この記事では目次の見出しを「第○巻」表記で統一していますが、原作の巻数表記は「PART○」となっています。


(画像1)アニメ映画『若おかみは小学生!』のポスター
映画.comの『若おかみは小学生!』のページより引用。


目次





スペシャル版『おっこのTAIWANおかみ修業!』

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最初にこの1冊を紹介したい。

……いきなりシリーズ本編ではなく特別編の紹介になってしまった。
と言うのも、一気に20巻(+シリーズ完結後に執筆されたスペシャル短編集3巻 ※2018年12月現在)を読むのはちょっとしんどい。『黒魔女さんが通る!!』とのコラボ小説もあるが、こちらも『黒魔女さんが通る!!』シリーズを知っていないと手に取りにくい。

この特別編は1冊で1つのエピソードが完結するので、その分気軽に手に取りやすいのではないかと思われる。
大まかなあらすじとしては、主人公のおっこがユーレイのウリ坊や美陽、魔物の鈴鬼と一緒に台湾へ行き、現地の温泉旅館の女の子(佳鈴)と出会い、様々なトラブルを解決していくというもの。佳鈴はおっこと同年代で、鬼やユーレイが見える陰陽眼の持ち主。本筋の物語を楽しみつつ、台湾の温泉や食事事情について知ることができるのも嬉しい要素の一つだ。

映画を楽しく鑑賞した後に、この1冊を読んで魅力を感じられたら、シリーズ本編に手を伸ばしてみるのも良いのではないだろうか。


第12巻「12 紅水晶の答え」

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映画の感想をTwitterでざっと確認した際に多く目についたのが、占い師の女性「グローリー水領」に関するつぶやき。大人の魅力に溢れた頼れるお姉さんに惹かれてしまうのは自然の摂理かもしれない。

そこで第12巻より、そんなグローリー水領さんが再登場する場面の紹介を。この巻では相変わらず麗しい彼女の姿を拝むことができる(写真1)。
ネタバレになってしまうのであまり詳しいことは言えないが、おっこはグローリーさんのお店を訪ねて恋愛相談を持ち掛ける。
この場面の何が良いかと言うと、おっこは占いをしてもらいにグローリーさんのもとを訪ねたというわけではないという点だろう。あくまで少し年齢が離れた一介の友達として相談する/それに答えるという両者の関係性、それが実に「尊い」のではないだろうか。

(写真1)グローリー水領さんとおっこ
若おかみは小学生! PART12』p.165より引用。


彼女について気になってしかたがない方に朗報を。
続刊でもグローリーさんは(ちょっとイレギュラーな形も含めて)何度か出演するので、興味のある方は是非原作を読んでいただきたい(何度も言うよ 残さず言うよ……)。


第11巻「8 王子様・お姫様の想い」

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映画ではあまり活躍の場がなかった鈴鬼。シリーズ本編ではメインを張る回もあるくらいのキャラクターなのだ。
そんな彼にまつわるエピソードを1つ紹介しよう。

鈴鬼がまだ魔界にいたころ。子魔鬼寺子屋(学校のようなもの)に通っていた鈴鬼には想いを寄せる相手がいた。その名は沙々夜化(ささやか)。
そんな彼女が温泉旅館「春の屋」を訪れる。これを機に彼女への告白を決意する鈴鬼。しかし沙々夜化はとある事情を抱えていて……。どうなる、二人の恋路!?(写真2)

(写真2)沙々夜化と(いつもより等身が高めな)鈴鬼
若おかみは小学生! PART11』p.117より引用。


子供心ながらこのエピソードの結末には感心してしまった。ネタバレになってしまうのでこれ以上伝えられないのがもどかしい限り。
決して「児童文学」だと侮ってはいけない。今でも時折読み返したくなる1冊。
このエピソードが気に入ったら是非『若おかみは小学生!スペシャル短編集1』もチェックしてみてほしい。貴方は2度泣かされる。


第8巻「19 柿の色の光がさすまで」

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今度は当時の自分にとって思い出深い1冊を。
実はこの巻だけ、(後に第9巻が刊行されるにも関わらず)何故か最後のページに「(つづく)」の文字がなかったのだ! シリーズ終了―すなわち「打ち切り」―の憂き目に遭ったのかと、当時はすごく不安な気持ちになったのを覚えている。

肝心のストーリーの紹介を。「若おかみ研修」の一環で、すっかりひなびてしまった小藤原旅館へと赴いたおっこ達。小藤原旅館の双子の姉妹を巻き込みながら活気を取り戻そうと奮闘する、というもの(先ほど紹介した特別編を若干彷彿とさせる構成)。

この巻でとりわけ注目したいのが、イラストを担当している亜沙美さんの画風の変化。キャラクターの可愛らしさは一貫しているものの、お馴染みのシャープな線画というよりは、小学校の図工の授業で絵葉書のイラストを描く際に使った「割り箸筆(割り箸の先に墨をつけて描画する)」を思い起こさせるような、力強くて太めな線画となっている。後に紹介する第3巻でも絵柄が一時的に変化しており、シリーズ中に作風を何度か試行錯誤していたのかもしれない。
亜沙美さんの手から紡ぎ出される可愛らしさ溢れたキャラクター達も『若おかみは小学生!』シリーズの魅力の一つだと言えるだろう。


第3巻「13 ふとんと太陽」

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おっこ、ウリ坊、美陽の3人の仲の良さが伝わってくるエピソード。

幼くして亡くなったユーレイの美陽は、温泉旅館の娘でありながら入浴の感覚がいまいち分からない。
幻を見せることができるユーレイのウリ坊は、大量のふとんと太陽の幻を見せることで美陽にその感覚を伝えようとした。実際には触れることができなくても、おっこ達と一緒にはしゃいで温泉の気持ちよさを味わい、楽しそうに笑う美陽の姿があった(写真3)。

(写真3)楽しそうに笑う美陽
若おかみは小学生! PART3』p.160より引用。


今回この記事を執筆するにあたって、原作のこのシーンを読み返してみた。……涙腺が緩んでしかたがない。
ウリ坊のさり気ない優しさも胸を打つ。シリーズには多くの人物が登場するが、何より3人の関係性が愛おしくてたまらないということを改めて気づかせてくれた。


第5巻「15 美陽とおじいちゃん」

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最後にはやっぱりこれを。第5巻の美陽と祖父のエピソードだ。

花の湯温泉で最も大きい「秋好旅館」のオーナー・秋野源蔵は、おっこの同級生の真月やユーレイの美陽の祖父。そんな彼も実は若かりしころは幽霊や魔物の姿が見えたという話を聞いたおっこは、美陽と引き合わせようとするが……。

(写真4)寂しそうな表情で服の裾を掴む美陽
若おかみは小学生! PART5』p.198より引用。


映画『若おかみは小学生!』が公開されると最初に聞いたとき、このエピソードを物語のクライマックスに持ってくるのではないかと密かに期待していた。ただそれだとおっこの映画というよりも美陽の映画となってしまい、話の軸がぶれてしまうことに後になって気づいたが……。

映画では描かれていない美陽の一面を、原作ではたっぷりと覗くことができる。
この巻で鈴鬼も初登場、お薦めの1冊。


おわりに

若おかみは小学生!』の原作エピソードをまんべんなく紹介するつもりが、いつの間にか美陽特集になってしまった。
これに関しては下のようなツイートをしているくらいなので大目に見てほしい。


2014年に発売された、シリーズが完結した後のおっこ達を書いた『若おかみは小学生!スペシャル短編集2』を読んだ際の自分のツイート。明らかに感情が揺さぶられている。


この記事では原作の前半のエピソード紹介が中心となってしまった。
原作の後半からも色々と紹介したいのだが、後半になるにつれてエピソードをかいつまんで紹介するのが難しいという事情と、重大なネタバレに繋がるようなエピソードが多いという事情を踏まえて泣く泣く割愛した。それに加えて、ライムスター宇多丸のラジオ番組で少し触れられていたように、原作の後半では鈴鬼・魔界関連の要素が強くなっていき、映画や原作前半とは雰囲気が異なっていくという事情もある。


ここまで一通り原作に焦点を当ててきたが、アニメ映画の方の感想を少しだけ。
全体的に素晴らしい映画であったという点では異論はないが、正直に言うと、先ほど取り上げた宇多丸のラジオ番組で否定的な意見を寄せたリスナー(「ツキナミ」さん)の感想と重なる部分もある。とりわけ、「舞台となる旅館にそこまで思い入れも接点もなかったおっこが最終的には旅館の掲げる理念まで語るようになる姿に強い違和感を覚えました*2」という部分だ。ただこれは、映画の尺の短さを考えると仕方のないことだろう。94分の上映時間ではおっこ達の1年間にどうしても追いつけない部分が出てくる。1つの映画作品として物語を丁寧に再構成し直していても(実際に映画『若おかみは小学生!』は熟考された構成になっている)、違和感を抱いてしまう箇所があるというのは理解できる。
だが、十分な長さのある原作ではこの違和感は緩和されるのではないか、と思っている。


また、相互補完的に映画と原作を楽しむというのもありだろう。原作では深く切り込まれなかった部分については映画で、映画では尺の都合上取り上げられなかった数々のエピソードについては原作で。
是非、様々な角度から『若おかみは小学生!』を味わいつくしてみてほしい。


完全に私事になるが、青い鳥文庫の『若おかみは小学生!』は全て実家に置いてきていたのですぐに内容を参照することができず、映画が公開されて一番盛り上がっていた旬の時期を少し過ぎた頃*3にこの記事を執筆することになってしまった。『若おかみは小学生!』をすぐに読みたくて、なかなか帰省できない我が身の境遇がもどかしかった。
でも電子版ならそんな心配も無用! 児童文学なので店頭で購入するのが少し気恥ずかしいという方でも、もう本棚にスペースがないという方でも、いつでもどこでも何度でも『若おかみは小学生!』を楽しめる! とりあえず第1巻や特別編をダウンロードしてみるのも良いかもしれない。



最後に、自分の人生を彩ってくれた『若おかみは小学生!』に感謝の念を伝えたい。
本当にありがとう。これからもよろしく。


(写真5)実家の本棚にぎっしりと入った青い鳥文庫若おかみは小学生!
2018年12月撮影。2018年5月に発売された『スペシャル短編集0』を購入するのを失念していたので、後で買いに行きたい。



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*1:興行収入の情報については下の記事を参照。なおこの記事では原作者の令丈ヒロ子さんに取材が行われており、『若おかみは小学生!』シリーズ愛読家にとって必読の構成となっている。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181226-00000093-sph-sociheadlines.yahoo.co.jp

*2:ライムスター宇多丸の『若おかみは小学生!』の映画評については、下の記事を参照。 www.tbsradio.jp 他の映画評も全文書き起こされて公式ウェブサイトで公開されており、TBSラジオのやる気が感じられる。

*3:この記事を書き終えた2018年12月時点では、劇場版『若おかみは小学生!』はまだまだ公開中。詳細については「若おかみは小学生!の上映スケジュール・映画情報|映画の時間」を参照。