たぶん大丈夫なブログ

ちょっとした考察や雑感を述べていきます。

飛び地探訪② 「大阪国際空港(伊丹空港)」

飛び地を語る上では欠かせない、複雑怪奇な境界の宝庫、大阪国際空港(別名、伊丹空港)が満を持して登場(写真1)。


(写真1)伊丹空港を東側から撮影。モノレール駅やバス停も見える。なお、本記事では以降、大阪国際空港伊丹空港の名称で統一する。


御託はこれくらいにして、早速本題に入ろう。

まずはこの地図を見てもらおう(図1)。


(図1)伊丹空港の位置を示した地図。大阪平野の北部、北摂地方に位置しているのが分かる。ここでは「大阪国際空港ターミナル(株)警備室」にピンを刺して表示した。


伊丹空港の位置を示した地図だ。伊丹空港大阪市から見て北側に位置しているのが分かる。一体これが何だというのか。

では次にこの地図を見てもらおう(図2)。


(図2)伊丹空港周辺の地図。市境や府県境が入り乱れているのが分かる。「地図アプリ」の地図をスクリーンショット、加工した。


これは伊丹空港周辺の地図だ。この時点で境界の複雑さが一目瞭然である。
実際、伊丹空港大阪府豊中市大阪府池田市、そして兵庫県伊丹市の二府県三市にまたがって立地しているのだが(これもややこしいが)、その三市が飛び地として入り乱れているのである。
大まかに言うと、大阪府兵庫県の府県境では豊中市伊丹市が隣り合っているのだが、伊丹空港周辺では本来豊中市が位置するところに池田市が割り込んでいる。そしてその敷地に豊中市伊丹市の欠片が散らばっているという具合だ。

何故こんなに複雑な府県境・飛び地が誕生したのか。全国的にもかなり有名な場所なので知っている人もいると思うが、記事を一つ紹介しておこう。

style.nikkei.com


このNIKKEI STYLE(「日経スタイル」表記では駄目なのだろうか)の記事によると、複雑怪奇な飛び地の起源は江戸時代にまで遡るという。一説には、太閤検地に際して耕作地が細分化された結果とも言われている。詳細は上記の記事や、他の文献・ウェブサイトを参照して欲しい。


さて、今回伊丹空港を取り上げるのには訳がある。ここまでならまだありふれた飛び地だが、伊丹空港の飛び地には特筆すべきポイントがあるのだ。

それは、二重飛び地である。

もう一度繰り返す、二重飛び地である(二重だけに)。

分かりやすい地図が先程のNIKKEI STYLEの記事に掲載されていたので、そこから引用しよう(図2)。


(図2)伊丹空港周辺の飛び地の色分け地図。「NIKKEI STYLEは次のステージに」に掲載されていた図を引用、加工した。


この地図のオレンジ色に塗られた敷地を見て欲しい。それが豊中市である。そしてさらに、その豊中市の敷地を青色で塗られた池田市が取り囲んでいる。そして周りに広がる白色の地帯は豊中市
そう、豊中市池田市が取り囲み、さらにそれを豊中市が取り囲むという二重構造である。これが二重飛び地と言われる所以だ。

今回その二重飛び地を踏破すべく、伊丹空港へと乗り込んだ。


最初に乗り込んだのは日本航空側のターミナル。パネルをパタパタとめくることで行き先表示が入れ替わる、昔ながらの掲示板があった(写真2)。歴史のある空港だからだろうか、こうした類の設備が今になっても残されており、空港全体として少し古めの印象を受ける(だがその雰囲気が良い、数十年前に建てられた総合スーパーに共通する印象)。


(写真2)パネルをパタパタとめくることで行き先表示が入れ替わる、昔ながらの掲示板……では文章が余りにも長くなってしまうので調べたところ、「反転フラップ式案内表示機」と呼ぶらしい(「反転フラップ式案内表示機 - Wikipedia」参照)。


この案内表示機が設置してあった場所は以下の地図の通りだ(図3)。現在地点がGPSで測定され地図上に青印で示されている(このGPSが曲者で、今回空港内を歩き回った際、位置情報が全然反映されなくて非常に困った。空港には人工衛星の通信を遮断するバリアでも張られているのだろうか)。


(図3)案内表示機が設置してあった場所の表示地図(青印が該当位置)。「地図アプリ」の地図をスクリーンショット、加工した。


ここも飛び地に囲まれていて面白い場所ではあるのだが、目的の二重飛び地ではない。もう少し南に下ってみると、全日空のターミナルがあった。北ターミナルを日本航空、南ターミナルを全日空と、南北のターミナルで会社による住み分けがなされている。

現在地点を確認するために地図を見てみると、二重飛び地が左側に隣接しているのが分かる(図4)。二重飛び地は青印の左側、四角形に囲まれた敷地である。また、現在地点の近くにある、滑走路側にニョキっと生えた建造物はNO2フィンガーと呼ばれるものらしい。


(図4)NO2フィンガー近くにある現在地点を表示した地図。二重飛び地が現在地点の左側に。「地図アプリ」の地図をスクリーンショット、加工した。


ちなみにここは先程から何度も繰り返しているNO2フィンガーの近くであるため、僅かな隙間から覗く形にはなるが飛行機を観察することができる(写真3)。


(写真3)NO2フィンガー近くの窓から眺めた滑走路の景色。


図4、写真3の位置からもう少しだけ北西に上がってみると、どうやら二重飛び地に辿り着けるらしい。その位置へ移動してみる。


……店舗があるため、自由に立ち入れない(図5)。


(図5)二重飛び地にほど近い店舗を表示した地図。「地図アプリ」と同様、青印が現在地点。「Googleマップ」の地図をスクリーンショット、加工した。なお完全に余談であるが、先程までGoogleマップではなく地図アプリを使用していたのは、市境や県境を観察する際に境目がはっきりと表示されるからである。それ以外の機能ではGoogleマップの方が使いやすい。


間近に二重飛び地があるのに立ち寄れないもどかしさ。いや、確かに店舗を利用すれば問題なく立ち入ることができるのだが、醸し出される雰囲気の上品さに圧倒されてしまった。料金表示を見ると、高級感漂う雰囲気の割にはリーズナブルであったため(ただ伊丹空港の飲食店全般に言えることだが、少々値は張る)、飛び地探訪のために飲食しようかと一瞬気持ちが揺らぎかけたものの、自分のみすぼらしい身なり(上はユニクロのダウン、下はヨレヨレのジーンズ)を振り返って断念。今度訪れた際はもう少しマシな身なりで堂々と利用しよう……。
隣の土産物屋はざっと物色したものの、この店舗は恐らく二重飛び地から僅かに外れているのだろう。何も買うことなく、そのまま後にすることに……。

せめてもの記念にと、店舗の写真を撮影したかったが、他にも利用客が大勢おり、また許可なく撮影するのも憚られるため断念(仮に許可を得たところで、「二重飛び地のために撮らせて下さい」と言うのも妙な光景である)。

仕方ないので、公式サイトから店舗の写真を引用しよう大阪国際空港のサイトリニューアルにより画像が消えてしまったので、Google検索でヒットした写真を引っ張ってきた(写真4)。


(写真4)恐らく二重飛び地が存在している、カフェレストランベレールの写真。写真からでも伝わる上品な雰囲気。


伊丹空港を利用する際、飛行機観察・撮影のために伊丹空港に来た際、そして世にも珍しい二重飛び地を探訪しに来た際には、是非このカフェレストランベレールを利用することをお勧めしたい。豊中市に囲まれた池田市に囲まれた豊中市という、複雑極まりない場所で、あなたは飲食することができるのだから。


そんな感じで、二重飛び地の所在地は何となく把握できたものの、余り収穫は得られなくて残念に思っていたところ……奇跡が起きた。
空港滞在中、常に調子の悪かったGPSが誤作動を起こし、二重飛び地内に現在地点が表示された(図5)。


(図5)GPSが誤作動を起こし、二重飛び地内に現在地点が表示された地図。滑走路上に現在地点が表示されるという明白な誤作動。「地図アプリ」の地図をスクリーンショット、加工した。


神様の気まぐれだろうか。そんなことを思いながら、二重飛び地に映し出された亡霊のスクリーンショットを大切に保存した。




※下記からは完全に蛇足な雑感です。「飛び地にしか興味がない」という方は読み飛ばしてください。


伊丹空港周辺はホテルやら工場やら、人が恒常的に住む施設は余り見受けられず、殺風景とも言える。そんな特異な場所であるためか、昔の時代の名残の風景を発見した(写真5)。


(写真5)「ナショナル エアコン」と書かれた文字が剥がされたビルの看板。


「ナショナル エアコン」と書かれた看板が、ビルの上に掲げられている。だがその字は剥がされ色褪せており、一見しただけでは読みにくい。現在は名称がナショナルからパナソニックに統一されていることからも、時代を感じさせる看板である。


今度はモノレールにまつわる写真を紹介しよう。モノレール大阪空港駅から伸びているレールが特徴的だ(写真6)。


(写真6)大阪空港駅から伸びているレール。


大阪空港駅大阪モノレール線の終着駅であるため、このような構造になっている。
剥き出しのコンクリートが並ぶ光景は圧巻である。反対側の終着駅、門真駅はどのような構造になっているのかも気になった。ちなみに、このモノレール駅も飛び地が入り組む面白い場所である。


次は伊丹空港ゆるキャラを紹介したい。その名も「そらやん」(「ら」にアクセント)である(写真7)。


(写真7)伊丹空港ゆるキャラ、そらやん。「http://www.kansai-airports.co.jp/company-profile/brand/character.html」より引用。


このゆるキャラを空港のあちこちで見かけたのだが、本当に可愛い。
このキャラでぬいぐるみを作ったら爆売れ間違いなしだろう。ゆるキャラグランプリ一位獲得も夢じゃない。その程度には惚れ込んでしまった。……はい、それだけです。


最後に、写真付きではないのだが、終了間際の空港の雰囲気について。
伊丹空港は住宅街に隣接しているということもあって、関西国際空港が建設されて以降国際便がなくなり、夜間の離発着も禁止された。
そのため、22時にはターミナルが閉鎖されることになる。20時を過ぎると大方の店舗も営業時間を過ぎて閉鎖され、人の数もまばらになる。そんな空港の雰囲気が実に良かった。
何かのゲームに興じ合っている女子学生グループ、談笑しながら段ボールを運んでいるキャビンアテンダントの方々(普段のキッチリとした雰囲気とは違った、友達、同僚同士の和気藹々とした雰囲気が伝わってきた)、誰も座っていないソファー、清掃も終わり次々とシャッターが下ろされる店舗。
空港は非日常的な空間とも言える。そのような普段の空港とはまた異なった、夜の空港という空間。非日常に非日常を重ねた空間。
これが国際便が何本も離発着する国際空港ならば、また違った雰囲気を見せてくれることだろう(映画「ターミナル」のような感じだろうか)。だが、伊丹空港は夜間には閉鎖される。そのため、「一日の終わり」という雰囲気がそこはかとなく漂う。終電を見送った後の駅にも通じる雰囲気。それが良い。そんなことを思いながら、伊丹空港を後にした。




【附記】
前回の「飛び地探訪」記事は下記のリンクからどうぞ。
tabunsakatsu.hatenablog.com



【2016年12月 追記】
伊丹空港の大まかな位置を示すために(図1)を追加した。



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