たぶん大丈夫なブログ

ちょっとした考察や雑感を述べていきます。

「ジョジョ地理問題」から見る大学入試

今ではほとぼりが冷めたようですが、国士舘大学で出されたジョジョの奇妙な冒険に関連する地理の入試問題が、一時期ネットで話題となっていました。
Twitterや各まとめブログだけでなく、ねとらぼの記事ライブドアニュースの記事でも取り上げられていました。それだけ有名漫画を題材とした出題は注目を集めやすいということなのでしょう。



(画像1)ジョジョ第3部。下記のねとらぼの記事より引用。
ジョジョの奇妙な冒険シリーズを通して読んだことがないので、漫画の文脈等を織り交ぜた方向で今回の地理の問題を語ることができないのは残念。


大半のツイートやウェブサイトの記事では問題の面白さや奇抜さに焦点を当てて、それに終始していたように見受けられるのですが、上記のねとらぼやライブドアニュースの記事では国士舘大学の広報課に取材し、出題意図も掘り下げていました。ここではライブドアニュースの記述を引用してみます。

「上記のとおり、出題内容へのスムースな導入が第一の目的ですが、地理という科目は、我々の日常生活と結びついており、身の回りの色々なところに地理的なものは転がっているのだということを、多くの人に知ってほしいという意図もあります。また、あまり知られていないかもしれませんが、人文主義地理学といって、小説や映画(もちろん漫画やアニメも)といった作品の中に、さまざまな場所や風景(例えば都市や国が)がどのように表現されているかを読み解くことで、その土地や風景の意味(人間にとっての場所・地域)を明らかにしようとする分野があり、この出題のような観点もまぎれもなく地理学の一部なのです」


この言葉に、今回の問題の出題意図が凝縮されています。
地理学というと、国や県や都市の名前と位置を覚えて、その地域の産業や気候を覚えて、そして……とひたすら暗記する科目のように思われがちですが(そして高校までの地理でそういう側面があることは否めませんが)、実際はもっと身近で密接的な存在です。そこまで肩肘張らなくてもいい科目なのです。様々な手段で情報が手に入る現在、情報を見つけ出す際の引き出しを築くという意味である程度の地理的知識は必要であるものの、そうした知識(地理行列)を何から何まで暗記しなければならないということはありません。むしろ、ある程度知識を蓄えた後は自身の力で問題を解決していくことが必要になってくるでしょう。今回の問題では、ジョジョ第3部がそのきっかけであったということです。


……と、ここまでは他のウェブサイトでも指摘されているかもしれない内容でした。以下の文章では、このジョジョ地理問題についてもう少し深く切り込んでみたいと思います。

具体的には、ジョジョ地理問題の作成者・出題意図について知るということです。
出題意図については上記の引用で述べられていたので、ここでは問題作成者の方を掘り下げていきましょう。

一般的な話として、大学入試を上手くこなすためには過去問対策や模試も大切ですが、特に二次試験において何より大切なのは、
大学の先生方の専門分野を知ることです。

今回の例で言うと、細分化された様々な分野がある地理学の中でも、国士舘大学広報課の方が述べられていた人文主義地理学」が出題のポイントでした。
この人文主義地理学というキーワードに注意しながら論を進めていきます。


早速、国士舘大学の地理学教室のウェブページ、その中でも専任教員一覧のページを見てみましょう。

http://bungakubu.kokushikan.ac.jp/chiri/Teacher/12ichiran.html

上記のURLを開くと、何名もの先生方のプロフィールが掲載されているのですが、その中に「地理的イメージ、文化地理学、都市地理学」を専門分野として研究しておられる内田順文先生がおられました。プロフィールを読むと、「地理的イメージに関して、主として認知地理学と人文主義地理学の両面から研究して」いるとの記述が見受けられます。内田先生の専用ページに進んでみましょう。

http://bungakubu.kokushikan.ac.jp/chiri/Teacher/Uchida/11UCHIDA.html

上記のページでは、内田先生の自己紹介やゼミ内容、そして「最近の研究実績」について触れられています。
そこを読んでみると……

・アニメ映画の風景としての農村―宮崎駿高畑勲作品に描かれた農村風景―.石原潤編『農村空間の研究(下)』大明堂, 429-444,2003.
・中国・四国・九州地方における都市の観光イメージについて―観光パンフレットを用いた場所イメージの定量的分析の試み―.国士舘大学地理学報告No.13, 1-16,2004.
・『日本の地誌2 日本総論Ⅱ(人文・社会編)』[共著].146-152,2006.
・小京都の景観とイメージ―四国にある3つの小京都―.阿部和俊編『都市の景観地理 日本編2』110-115,2007.
・風景としての武蔵野―国木田独歩『武蔵野』を読む―. 国士舘大学地理学報告16号,57-63.2008.


と書かれています。アニメ(この場合だとジブリ映画)や文学作品(国木田独歩『武蔵野』)から風景・景観(landscape)を掘り起こすという研究をなさっているようです。地理学というと地図とにらめっこして、各種統計を用いて……のようなイメージを持っている人がいるかもしれませんが、このような研究もれっきとした分野の一つです。


さて、以上の情報が出揃ったので結論を述べたいと思います。

今回の国士舘大学ジョジョ地理問題の作成者は、恐らく内田順文先生です。

ジョジョという人口に膾炙した漫画の選定も、内田先生の研究内容と合致します。
入試問題ではあくまでジョジョ第3部で登場した国・地域に関連する地誌学的内容が問われていましたが、これを学問的に研究するとなると、漫画で描かれる景観と実際の景観との同異点の掘り下げや、そもそも何故その場所が選ばれたのかという理由の追究になるのかもしれません。


ジョジョ地理問題では色々な意見な寄せられていたようでしたが、個人的には地理と漫画を結びつける面白い試みだと思っています。出題内容も高校の範囲を逸脱しておらず、地理の基礎を押さえておけば解ける良問ではないかと。
ただ、ジョジョを読んでいない人が不利になることはないものの、ジョジョを読んだ人が有利になる作問であった可能性は否めません。実際いくつかのウェブサイトでは、アスワンハイダムの「アスワン」という文字が漫画内で出ていたという書き込みを見かけたためです。しかし、アスワンハイダムに至っては常識を問うレベルの問題であるので、有利不利に大きな差が生じたと断定するのも行き過ぎな気がします。


いずれにしても、内田先生の研究分野を踏まえると、国士舘大学の地理問題で漫画などのメディアと絡めた出題がなされることは十分に予想できます。漫画だけでなく、先程触れたアニメや文学も出題の対象となるでしょう。

そしてこれは、何も国士舘大学の地理の問題に限ったことではありません。
大学の先生方の専門分野・関連分野が入試問題として出題されることは、他の大学の他の科目においても十分に当てはまる話です。

一つ例を挙げると、某国立大学・某学部の後期試験では小論文が出題されています。その小論文の一つに、あるテーマを聞かれ、それについて800~1500字程度で記述する問題があります。そしてその出題傾向は、大学の先生方の専門分野に近いものが多かったのです。
勿論何十人もの先生方がおられるので、自分にとって興味のある分野の先生からの出題と巡り合う可能性はそんなに高くないでしょう。しかし、大学生になる前に学校の勉強だけでなく大学の先生方の専門分野について知っておくことは直接的・間接的に大学入試について詳しくなれるだけでなく、受験勉強や大学進学後のモチベーションの維持にも繋がるとも言えます。


本記事を書くにあたっての懸念事項として、この記事で出題者の先生を特定するのは如何なものかな、という気持ちはありました。
しかし、問題の出題者は見る人が見れば(それこそ、どの大学にどのような先生がいて何を専門としておられるのか、といった事情が大まかに把握できていれば)分かってしまうものであり、実際に今回のジョジョ地理問題でも内田先生の名前が書きこまれたウェブサイトのコメント欄が見受けられました。
どうやら大学入試の裏事情でも情報の格差があるようです。それなら尚更、出題者や出題意図について知らない人に向けてこの記事を書くことにも意義があるのではないかと思いました。


またこれは副次的な内容になりますが、大学の先生方の業績・研究成果は、学外からでもアクセスしやすいものだというのも伝えたかったことの一つです。
今回は国士舘大学のウェブページにアクセスしてみましたが、それだけでもかなりの情報を得ることができ、ジョジョ地理問題を恐らく作成したであろう先生まで特定することができました。大学での学問・研究は、学外からもアクセスしていかないと非常に勿体ないのではないでしょうか。

ここでは内田先生の研究内容を例にしてみましょう。CiNii(サイニィ、サイニー)と呼ばれる論文検索サイトで内田先生の論文を検索すると、ページの下部にJ-STAGEと書かれたオレンジ色のアイコンが見受けられます(CiNii Research参照)。
このアイコンがある論文はネット上で無料で閲覧することができます。大学や図書館に行って、学術誌を探り当て、複写をしなくてもいいのです。発行物に直接アクセスする手間が省ける分、気軽に研究内容を知ることができます。これはネット環境が一般家庭において未整備だった20年前には考えられない、画期的なことではないでしょうか。
ちなみに上記のサイトから閲覧できる内田先生の論文は3つあり、タイトルはそれぞれ
「都市の「風格」について」
「地名・場所・場所イメージ:場所イメージの記号化に関する試論」
「軽井沢における「高級避暑地・別荘地」のイメージの定着について」
です。
上記の論文は「地理学評論」や「人文地理」と呼ばれる地理学の学術誌に掲載されたものであり、比較的近年までの論文が一部を除いてネット上に公開されています。さすがに2010年代の論文については原典をあたらなければなりませんが……。気になった方はアクセスしてみては如何でしょうか。


長くなりましたが、以上が伝えたかった内容です。
特にCiNiiの有用性については触れておきたかったので……高校生の時に知っていたらと後悔するばかりです。

大学入試で気になる問題が出題された際、それを表面的に楽しむだけでなく、出題者の意図や、そもそも出題者とは誰なのか、出題者の先生の研究内容はどういったものなのかを掘り下げてみることも面白いのではないでしょうか。それは実際の試験で有利に働くだけでなく、大学進学後の人生を豊かにしてくれるはずです。



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